第1編 序論

第1章 計画策定の趣旨と計画の構成

 第1節 計画策定の趣旨
 21世紀を迎え,少子・高齢化社会が本格的に到来し,高度情報化や国際化の一層の進展,住民の価値観や生活様式の変化などにより,住民ニーズの多様化・高度化がますます進むものと予想されます。このような社会情勢の急速な変化を背景に,新しい地方の在り方が問われており,自己決定・自己責任を基本とする地方分権を踏まえた行政施策の展開が必要となっています。
 地方が大きな転換期を迎え,緊急を要する大きな行政課題として全国で市町村合併が進められる中,川薩地区法定合併協議会での協議を経て,平成16年10月12日,川内市・樋脇町・入来町・東郷町・祁答院町・里村・上甑村・下甑村・鹿島村の1市4町4村が合併し,薩摩川内市が誕生しました。
 合併協議会では,関係市町村の総合計画等の基本構想及び過疎・辺地等の個別計画を踏まえながら新市を建設していくための基本方針を定め,その実現を図ることにより,新市の速やかな一体化を目指し,地域の発展と市民福祉の向上を目的として,市町村の合併の特例に関する法律に基づき薩摩川内市まちづくり計画を策定しました。
 薩摩川内市総合計画は,薩摩川内市まちづくり計画を可能な限り尊重するとともに,将来の発展に向けて,今後10年間の本市まちづくりの指針として新たに策定するものです。

 第2節 計画の役割
 この総合計画は,本市の将来の発展に向けて,市民と行政が一体となって,地域特性を活かしながら,新しい時代にふさわしい活力と魅力あるまちづくりに取り組むための,市政の総合的な経営指針となるものです。

 第3節 計画の区域と範囲
 総合計画の対象区域は,原則として現行行政区域としますが,南九州の拠点都市としての役割を認識しながら,機能分担と相互連携など広域的な視点にも配慮したものとします。
 また,総合計画は,市が直接実施主体となる施策・事業を基本としますが,必要に応じて,他の事業主体の施策・事業を包括するものとします。なお,国,県その他公共的団体や民間等に期待する分野等についても明示します。

 第4節 計画の構成と期間
 この計画は,「基本構想」,「基本計画」及び「実施計画」で構成し,それぞれ次のような役割と計画期間を持つものとします。

  1 基本構想
 基本構想では,本市のまちづくりの全領域にわたる中長期的な目標,いわゆる本市の都市としてのあるべき姿,目指すべき方向を示します。計画期間は,10年間(平成17年度から平成26年度まで)とします。

  2 基本計画
 基本計画では,本市の解決すべき課題を把握した上で,基本構想の目標達成に向けたまちづくり施策の方向を総合的・体系的に示します。
 その範囲は,本市がなすべき施策を中心に,市民,民間,他の公共団体等と協力しながら行う範囲も含み,市政経営の指針となるものを目指します。
 計画の目標年次は,平成26年度とし,上期と下期の各5年に分けてまちづくりの指針を示します。

  3 実施計画
 基本計画に基づいて具体的な施策を展開していく上では,その時々の諸事情の変化等に応じて,市民ニーズの高いもの,より大きな政策効果を得られるもの等から,計画的に個々の事業を実施していくことが求められます。実施計画は,そうした実際の状況等に即した個々の事業の展開計画と位置付け,計画期間を3年間としますが,毎年,計画内容の見直しを行います。


第2章 計画策定の背景と課題

 第1節 薩摩川内市を取り巻く社会情勢

  1 国際化の進展
 国際的な情報通信網の整備や航空路線網の充実,自由貿易体制の拡充等を背景に,社会経済の国際化が進んでいます。このような中,特に,中国をはじめとするアジア諸国の経済発展は顕著であり,世界の生産拠点として急速な発展を遂げつつあります。我が国も,今後はアジア諸国との関係をより緊密化させ,拡大させていく必要があります。
 また,物流のスピード化を図るため,海陸一貫物流情報システムなど,情報通信技術を活用した運輸・交通基盤施設等の整備や輸出入手続窓口の一本化等を促進する必要があります。
 中国・常熟市及び上海市嘉定区馬陸鎮(まるちん)と友好関係にある本市でも,今後の南九州西回り自動車道等の整備を考慮しながら,これらの動きに対応して,川内港の整備や定期航路の拡充等を計画的に進めることが必要です。

  2 高度情報化の進展
 情報処理技術や情報通信技術の飛躍的な発展により,コンピュータの小型化や高機能化,インターネットのブロードバンド化や携帯電話の普及,ユビキタス環境の構築等,いわゆるIT(情報通信技術)革命が急速に進展しています。
 とりわけデジタル技術をはじめとする情報通信技術の急速な発展に伴い,保健・医療・福祉,教育,防災等生活に身近な様々な分野で情報化が進み,本格的な高度情報化社会が到来しようとしています。地方自治体においても,国の電子政府化の推進を受け,行政の情報化,ネットワーク化の推進が図られ,電子自治体の構築に向けた取組が進められています。
 しかしながら,情報通信技術の普及は,一方で情報格差を社会的にもたらしつつあります。今後は,こうした情報格差の解消のための情報通信基盤の整備等に取り組むとともに,市民への情報伝達,事務事業の効率化,情報発信などにおいて,情報通信技術を積極的に活かした取組が必要です。また,個人情報保護のセキュリティ体制整備が急務となっています。
※ブロードバンド(broadband)⇒高速な通信回線の普及によって実現される次世代のコンピュータネットワークと,その上で提供される大容量のデータを活用した新たなサービス
※ユビキタス(ubiquitous)環境⇒あらゆるモノにコンピュータが埋め込まれ,ネットワーク化されることで,いつでも,どこでも,誰でもやりたいことが自在にできるIT環境

  3 少子・高齢化
 我が国では,平成9年6月にはじめて65歳以上の人口が15歳未満の人口を上回り,その後も少子・高齢化の流れが続いています。
 合計特殊出生率は長期的な低下傾向が続き,平成15年の人口動態統計月報年計(概数)によると1.29となっており,本県においても同年で1.49と,少子化の傾向が強まっています。主な要因としては,社会進出する女性にとって子どもを産みにくく,育てにくい社会の構造的な特徴に根ざすところが深いとされています。
 一方,平成15年10月1日現在における高齢化率をみると,本県は24.0%となっており,全国平均の19.0%よりもかなり速いテンポで高齢化が進んでいます。中でも本市の高齢化率は25.4%と本県平均より高くなっています。
※合計特殊出生率⇒15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので,一人の女性が生涯に何人の子どもを産むか推計した値に相当し,この数値が2.08を下回ると,将来的に現在人口を維持することができないとされている。
※高齢化率⇒総人口に占める65歳以上の高齢者の割合

  4 産業構造の転換
 我が国の産業構造は,情報関連サービスやリース等のサービスの需要拡大,保健・医療・福祉,環境,余暇・レジャー等の面における消費者ニーズの多様化・高度化等がより一層進展し,第3次産業の比重が更に高まっていくと予想されます。
 また,企業は,生産拠点の海外移転等,世界規模で事業展開しており,特にアジア地域との関係を深化させていくものと考えられます。そのため,国内産業の生産部門の空洞化も進行しています。
 このような産業の空洞化と,国際的な競争の激化,情報化,知識集約化,技術革新の進展を背景に,我が国の産業構造は大きな転換を迫られており,経済的規制の撤廃・緩和による開かれた経済社会への転換が強く求められています。
 地方においては,高度化した産業技術の地域産業への積極的な導入を図るほか,新しい発想の下で地域資源を有効に活用した産業の展開を進めるとともに,産業を支える人材を育成するなど,自立的に発展する地域産業の振興に取り組むことが求められています。

  5 循環型社会への転換と自然との共生
 社会経済の発展に伴い,地球温暖化,オゾン層の破壊,ダイオキシン等による環境汚染,限りある資源やエネルギーに関する諸問題など,様々な環境問題が地球規模で深刻化する中,地球環境への関心が高まってきています。
 大量生産・大量消費・大量廃棄型の生活様式や経済活動を見直し,豊かな恵みをもたらす美しい海・山・川を後世に伝えるため,自然との共生と環境への負荷の少ない循環型社会への転換を図り,地球的視野から暮らしを考え,行動することが求められています。

  6 価値観の変化と生活様式の多様化
 人々の価値観が,生産重視から生活重視,物の豊かさから心の豊かさへと変化しています。
 また,労働時間の短縮や平均寿命の伸長等による余暇時間の増加,核家族化の進行等により,生活様式も多様化してきており,生活のゆとりやうるおいを重視しながら,個性的で創造的な生き方を求める傾向が強まっています。
 このため,自立した個人が,自己責任の下に,自分らしい生き方や暮らし方を選び,実践していける自己実現の場や,選択の機会の創出が求められています。また,市民自らが主体となった地域づくりを促進し,地域の自主的な活動と活性化,価値観の多様化を見据えたまちづくりを進めていくことが重要になっています。

  7 地方分権
 平成12年4月のいわゆる「地方分権一括法」の施行に伴い,自治体の自主性・自立性の尊重,地域住民の自己決定権の拡充が求められており,地方分権は議論から実行の段階に移行しています。
 身近な行政施策をできる限り市民に近い自治体において処理すべく,自治事務と法定受託事務の再編,権限移譲の推進,補助制度の見直し等,抜本的な行政制度の改革が進められた結果,自治体による政策判断,政策遂行における自己責任能力の重要性が高まっています。
 国から地方への税源移譲,国庫負担金の廃止・縮減,地方交付税制度の見直しを検討する,いわゆる「三位一体改革」が推進されている中,市町村への権限移譲については,人口規模に応じて段階的に権限を移譲していくものとされています。地方交付税制度についても,段階補正(団体規模)の見直しや,いわゆる構造改革の効果論から見た適正人口規模等,地方財政制度の抜本的改革が進められようとしています。

  8 “協働”・“共同”の時代へ
 地域の暮らしや教育,文化,まちづくりなどの公共的事業を行政が独占的に直接担う時代から,地域住民やNPO,ボランティア,企業等の民間と行政が公共的活動や社会活動を共有し,それぞれの役割を果たす「協働」の時代へ移行しはじめています。
 また,市民一人一人の多様な生き方や考え方が反映される市民参画のまちづくりを進めていく必要があります。男女が対等な社会の構成員として認め合い,支え合い,その個性と能力が十分に発揮できるよう「個人の尊重」と「男女平等」に基づく男女共同参画を,あらゆる場において進めていくことが重要となっています。
※NPO⇒民間非営利組織のことで,営利を目的としない公益的な市民活動などを行う組織,団体

 第2節 薩摩川内市の特性と基本課題への対応

  1 薩摩川内市の特性

   (1) 豊かな自然
 本市は,東シナ海に面した変化に富む白砂青松の海岸線,市街部を悠々と流れる一級河川「川内川」,藺牟田池をはじめとする湖沼や緑豊かな山々,地形の変化の美しい甑島,各地の温泉など,多種多様な自然環境を有しています。
 本市が有するこれらの多彩で美しい自然環境は,川内川流域県立自然公園,藺牟田池県立自然公園,甑島県立自然公園に指定され,人々に親しまれています。

   (2) 誇れる歴史的・文化的資源
 薩摩国分寺跡,清色城跡などの国指定史跡や入来麓伝統的建造物群保存地区をはじめ,本市は多くの貴重な歴史的資源を有しており,古くから南九州における政治・経済・文化の中心地として栄えてきました。
 また,このような厚みのある歴史・文化を背景に,有島三兄弟や山本實彦など多くの文化人を輩出してきました。
 これらの歴史的・文化的資源を誇りにし,地域の宝として更に磨きをかけて情報発信を積極的に行い,まちづくりに活かすことが求められています。

   (3) 高速交通網と国際貿易港を備えた南九州の拠点都市
 本市は,国・県の出先機関が集中する南九州の拠点都市と位置付けられ,国道3号,国道267号,国道328号,JR鹿児島本線,肥薩おれんじ鉄道などの幹線が通る交通運輸の要衝ともなっています。平成16年3月に一部開業した九州新幹線鹿児島ルートや南九州西回り自動車道などの高速交通網の整備も進められ,南九州の拠点都市としての機能の充実が図られつつあります。
 また,中国・韓国及び東南アジアとの貿易・流通の拠点としての将来性のある川内港を有しており,九州新幹線鹿児島ルートや南九州西回り自動車道等の高速交通体系との相乗効果により,南九州西岸地域の拠点となる国際貿易港としての発展が期待されています。

   (4) 先端技術産業の集積が進む都市
 産業構造については,就業人口からみた場合,第3次産業への比重が高まりつつありますが,鹿児島県平均と比べると,第2次産業,特に製造業の割合が高く,県内でも有数の工業都市となっています。
 本市の工業製造品年間出荷額は,平成15年では鹿児島県全体の
 9.7パーセントを占め,ICパッケージ,産業用機械部品,電子部品や紙・パルプの製造業が主なものとなっています。
 近年では,IC関連産業などの企業進出が進み,先端技術産業の集積が図られつつあります。
※ICパッケージ⇒ICはIntegrated Circuit(集積回路)の略。シリコンで作られている集積回路を保護するため,絶縁性が高く,焼成固化することで丈夫な封入殻を形成するファインセラミックスによる外殻包装(パッケージ)

 2 薩摩川内市の基本課題と課題への対応

  (1) “地域力”を育む体制の強化
 少子・高齢化に伴い,若年層の働き手の減少による経済活力の低下,保険・年金の収入減・支出増による財源の悪化,福祉関連事業への行財政負担の増大,コミュニティ活動の衰退など,様々な問題が懸念されています。そのような中,これらの問題解決の糸口として,地区※の活性化による「地域力」の強化が最も重大な課題となります。
 国全体の人口の増加が見込めない上,本市においても少子・高齢化の進展は顕著であり,本市の活力を高める定住促進施策を推進し,高齢化に伴う行財政負担に対応できる効率的な行財政運営を図る必要があります。
 一方,市民一人一人が自分の住む地区や本市の活動に積極的に取り組むとともに,一人暮らしの高齢者に対する施策や青少年の育成など相互扶助による地区の活性化に参画する体制づくりも重要です。郷土の歴史と文化を継承していくとともに,郷土に対する愛情と豊かな人間性を持った人材の育成も求められています。
 また,人口の流入を促進し,若年層の定着を図り,本市の活力を高め,県内だけではなく全国的な都市間の競争に勝ち残るための戦略的な対応を図る必要があります。
※地域力⇒地域の自然や歴史・文化というような財産と特性を踏まえた地力(本来持っている実力)のこと。
※コミュニティ⇒人々が共同体意識を持って共同生活を営む一定の地域のこと。
※地区⇒本計画では,いくつかの自治会区域が集まった中規模エリア(小学校区・地区程度)を想定している。

  (2) “都市力”の強化と地方拠点都市としての機能の充実・強化
 交通・情報技術の発達や経済活動の進展に伴い,市民の日常生活圏は市町村の区域をはるかに越えて拡大しています。
 平成16年3月には九州新幹線鹿児島ルートが一部開業(平成22
 年度全線開業予定)し,交流人口の増大,通勤圏の拡大などを視野に入れた施策展開が可能になりました。さらに,平成18年度には南九州西回り自動車道薩摩川内都インターチェンジの供用開始が控えており,本市への社会的・経済的効果が期待されています。
 高速交通体系の整備によって,福岡・熊本はもちろんのこと鹿児島市との時間的距離が短縮され,定住促進施策,交流人口拡大施策等について都市間の競争が激しくなってきます。将来の都市間競争の激化に適切な対応をしていくためには,都市規模を拡大するスケールメリットを活用し,その競争力を高めることが必要です。そして,地域の一体的なまちづくりや財政基盤の強化による「都市力」の強化が不可欠となります。
 また,基礎自治体として10万人規模を基準にした権限移譲や地方交付税制度の見直しが進められており,南九州の拠点都市である本市も,県土の均衡ある発展のため中核的な役割を担っていくことが求められています。従来よりも増した地域浮揚が望まれており,可能な限りの高い目標を掲げて全体的なまちづくりを進め,自然・歴史・伝統・文化などの地域資源を活かしながら都市規模の拡大による相乗効果を導き出し,市民や市内事業者の活力を生み出す必要があります。さらに,行財政運営の効率性の向上によって得られた余剰資源を文化的活動や福祉活動等に還元し,市民生活を一層快適にする必要があります。
※都市力⇒類似の資源が集まることによる規模拡大の効果の発揮や異なる資源が融合することによる相乗効果の発揮によって,都市としての魅力が向上すること。
※スケールメリット⇒規模を大きくすることで得られる利益

  (3) 地方分権に対する適切な受皿づくり
 自治体の自己責任能力の違いが,地域の行政サービスの差や地域の活力などに直接的に影響することが予想されます。一層主体的に市政経営に取り組むことが必要となり,独自の条例や基準を設ける等,自治体の政策形成能力に関して格差が生じる時代となることから,今まで以上に職員の政策形成能力が重要になってきます。
 また,様々な権限移譲に伴い市の事務量は増加し,さらに新しい分野での事務の発生や,より専門的な判断機会の増加などが予想されます。地方分権に対する適切な受皿づくり(行政機構の強化・財政基盤の強化)を進め,組織自体の強化を図るとともに,まちづくりの進め方も,行政主導から市民自らのまちづくり,市民と行政の役割分担へと転換させることで,多様化する市民ニーズに対応していく必要があります。